「パズルの軌跡 穂瑞沙羅華の課外活動」読了。

映画にもなった機本伸司氏のデビュー作にして第三回小松左京賞受賞作「神様のパズル」の続編、という位置づけ。できの悪い物理学専攻の綿貫基一がやっと会社に就職したのもつかの間、やっかいな相談事に巻き込まれる。
前作で天才美少女で飛び級の大学生だった穂瑞沙羅華は、訳あって普通の女子高生としての日々を送っている。“ネオ・ピグマリオン”という怪しげな会社の社長からある依頼を受けた綿貫は、前回の事件以来、半年ぶりに沙羅華の家を訪れるのだが...
以下、ネタバレ注意。
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「神様のパズル」のスピンオフ的位置づけである「神様のパラドックス」に出てきた樋川晋吾も脇を固めて独特の味わいを出している。が、ストーリー的には独立しているので、前二作を読んでいなくても特に問題にはならない。
読後感は、なんだろう、いささかとも戸惑ってしまう。これはSFではない。中で登場する科学技術はほぼ既存のもので、その気になりさえすれば実際に実現できてしまう。かなりマッドでゴスロリだけれど。
それと... ストーリーとは直接の関係はないが、設定の細かい部分でなぜかこのブログで多少なりとも触れてきたネタとも、かなりかぶる気がする。じつは著者はこのブログをちょくちょくチェックしているのではなかろうか、と、疑いたくなるほどだ。おらの頭の中を覗くなぁ〜(爆
それだけではない。このブログには書かなかったけれど、海外出張の際にこれまで2回ほど、飛行機の中で隣りの席に座った日本人の若者が私費を投じてこれから参加しようとしている自己啓発セミナーがいかに素晴らしいものであるか、延々何時間も説得をされた経験がある。この本の前半200ページほどを読んでいると、その時の若者達のなにか取り憑かれたようにしゃべる表情が思い起こされてきて、なんとも憂鬱な気分になった。機本氏がこの作品で掘り起こしたテーマは、日頃あまり話題になることはないが、まぎれもない現実の日本の姿の一つなのだ。
くだんの飛行機で乗り合わせた若者たちにビッグバンから始まる宇宙開闢の物語を延々と聞かせてあげたら、目を輝かせて食いついてきたので、管理人にもじつはそれなりのビジネスチャンスはあるのかもしれない...などと妄想するのはおいておいて、「自分とは何か」「宇宙とは何か」が裏テーマとなっている本作品は、まぎれもなく機本氏の真骨頂が発揮されている。
物語の後半は「007」シリーズのボンド役のようなアクションを出来の悪いワトソン役の「綿さん」がコミカルにこなしていく、のだけれど、ストーリー展開的にはおおむね予測できてしまう。沙羅華と綿さんの今後のシリーズ化に期待できそうなラストが救いと言えば救い。
どちらかといえばかなり地味めな作品だけれども、この作者の提示する問題意識は、じつはこのブログの裏テーマともかなりかぶる気がする。かつ、他の作者が提示しているのを見たことがない。ということで、星三つ。★★★☆☆
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