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2009.04.27

失われたテクノロジー

カーナビや携帯電話に搭載されて、いまや現代社会に不可欠となった感のあるGPS。アメリカが宇宙用セシウム原子時計を搭載した最初のGPS衛星を打ち上げたのは、いまから32年前の1977年だという。人工衛星は地球から受ける重力場が地上より弱いので、一般相対性理論の効果によって時計が早く進む。GPS衛星の軌道の高度では秒速約8kmで特殊相対性理論で時計が遅れる効果よりも一般相対性理論の効果の方が勝るらしい。

1977年といえば映画「STAR WARS」の年。Disney ProのB級SF映画「The Black Hole」が封切られたのが1979年だから、世の中の一般相対性理論への理解はまだ半信半疑といった時代。そういえば都筑卓司さんのブルーバックスが絶好調でしたね当時。最初のGPS衛星にはなんと一般相対性理論からくる時刻の補正を入れるか入れないかを切り替える機能があったのだという。現在ではもちろん補正を入れないと計算が合わないことが常識なのだけれど。

といううんちく話を知人から聞かせてもらっているうちに、「人類が秒の単位で精密に時を刻む時計を初めて必要としたのはいつの時代でしょう?」という問いが。

答えは15世紀から17世紀の大航海時代なのだそうで。

コロンブスの新大陸発見以降、人類が初めて陸地の見えない大海原に大々的に乗り出していった時代。太陽や星の高度を測れば船の現在地の緯度はわかるけれど、経度を正確に知るためには出港から数ヶ月にわたって秒単位で正確な時を刻む時計が必要になる。イギリス議会は1714年、揺れる船舶の上でも正しい時を刻む高精度の時計を製作したものに2万ポンド(当時の数億円相当)もの懸賞金を出すことを決め、クロノメーター誕生のきっかけとなったとのこと。

将来、人類がなんらかの理由でGPS衛星を失い、半導体産業が壊滅したとしたら、当時の機械式クロノメーターの技術は取り戻せるのだろうか。

現在、国際単位系(SI)で「1秒」という単位は「セシウム133原子の基底状態の二つの超微細構造準位の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間」と定められている。この精度すら最先端の科学技術分野ではもはや不十分になりつつあるとのことで、東京大学の香取准教授が開発したさらに精度の高い光格子時計を1秒の基準の国際単位系に制定する動きが進行中なのだという。

時の流れは時として残酷なまでに早いものだと思う。わずか65年前、10代、20代の若者たちが夜空に輝くベガの輝きを頼りに敵艦めがけて突入していった時代があった。時刻の1秒の精度が達成できれば経度方向で500mにも満たない。意外な精度。科学技術の進歩や通信技術の進歩の速度の順番が少し異なっていたら、今とは違う歴史もあったのだろうか。日本が時刻の世界標準を定めるほどの技術水準を持つことに誇りを感じる。平和を謳歌しつつこの年齢まで生きてこられたことへの感謝と、この平和を次の世代へ繋いでいくことの重みについて考えてみる。

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