足なんて飾りです?
頭ん中:ジオングの整備兵は「足なんて飾りです」とは言ってない
へぇ、わたしゃリアルで見ていた世代だけど、覚えてなかった。orz
それはさておき、宇宙開発戦略本部が非公開で開いた専門調査会で毛利衛日本科学未来館長が「日の丸人型ロボット月面歩行計画」として、日本の優秀な二足歩行ロボット技術を活用する案を提出したらしい。まさに「偉い人にはそれがわからんのですよ」と天を仰いで嘆息したくなるような、マンガチックな展開。事実は日本サンライズより奇なり?!
業界周辺の評判はこれがまたすこぶる悪い。
SPACEREF: 2009-03-06 ロボット月探査、有人船検討=コストは今後議論−政府宇宙本部
ただ何故に二足歩行のロボットが月に行くのか意味不明だ。月探査を行う目的が明確ならば、二足である必要性はなくなる。少なくとも欧米の月探査ミッションシナリオに当てはめても、2足歩行ロボットの意味は全く不明だ。人間型ロボットの場合、月面や宇宙空間で要求される機能は「足」ではなく、上半身だけのはずだ。二足歩行は他の惑星では意味をなさない。
野尻ボード:野尻抱介 日本の惑星探査、存亡の危機
あと毛利さんが言い出した、二足歩行ロボで月面探査というのも勘弁してほしい。一般受けはするでしょうが、そんな道楽をしている時じゃないでしょう。
そりゃ常識的に考えて、信頼性と軽量化と遅れがちなプロジェクトのスケジュール通りの遂行をなによりも是とする惑星探査の立場からすれば、二足歩行なんていつになったら実現するかわからない悪夢のプロジェクト以外の何者でもない。
でもね。
5年先とか10年先とかに、探査ロボットを月面に送って、その予算は国民の血税だから100円でも1円でも安い開発を目指して有効に仕上げなければならない。どんな失敗も許されない。
という発想なのであれば、その常識は正しい。
でももしもゴールを20年先、30年先に設定して、そのときに日本が「ものづくり」でどのような国際的リーダーシップを発揮しているだろうか、という夢想をするとき、噂されている一兆円だか二兆円だかの国家予算を今後10年間程度に平滑して、ホンダやトヨタやサイバーダインや産総研に「委託研究」という法的縛りのもとに適正に執行できるのであれば、そしてその執行された予算を確実に査察することができるのであれば、これはじつに賢い国家戦略といえるのだと思う。
たしかに6分の1の重力(月面)や3分の1の重力(火星)でもまともに動作するロボットを作ったとしても、地球上の人間には一見、なんのメリットもない。レゴリスという月面や小惑星の表面を覆っている、角の尖った細かい砂は、エルアラメインの戦いでドイツ軍戦車の整備兵を泣かせたサハラ砂漠の砂と同様、ロボットの研究者にとっては悪夢のような存在だ。
しかしその難問にチャレンジして乗り越えることのできた技術者は、20年後や30年後、40年後に日本の経済発展を支える屋台骨となってくれるだろう。「日本製ロボット」が世界のどんな過酷な場所でも確実に動作する製品の代名詞として、ブランドイメージが定着することになる。
スピリットやオポチュニティなどの車輪で駆動する惑星探査車は経済的で確実で安定しているが、未整地のごつごつした土地や傾斜地での行動が苦手という決定的な弱点がある。地球上でも、地下でも、あるいは深海底でも、あるいは地雷除去や災害現場での重機操作でも、人間のために設計されたものをロボットに操作させたい場面は今後、飛躍的に増えてくる。いや、増えてくるとみんなが信じないうちに技術を開発して市場を席巻した方が戦略上有利だ。
人間は二足歩行によって両手を自由に使えるようになり、脳の神経細胞の手をコントロールする部分が飛躍的な進化を遂げた。自転車やオートバイは、タイヤが2本しかないという不安定で不完全な乗り物であるがゆえに、多くの自由度を利用するものに提供してくれる。
私がもし惑星探査の研究者であれば、この動きをてこに学会を設立して、日本や世界の名だたるロボット研究者を一堂に会した国際会議を開催し、あわよくばJAXAとは独立の研究開発センターを設立するだろうな。そして糸川博士のようにやんちゃで扱いづらい20代から30代の若者を5,6人集めてきて、口角泡を飛ばして机を拳で叩くほどの熱い議論を闘わせる環境を提供する。
Not because they are easy, but because they are hard. (c) John F. Kennedy
時代は君たちのためにあるのだよ。その手でつかみとりなさい。
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