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2009.03.29

宇宙兄弟第5巻

Amazonで予約してあった宇宙兄弟第5巻が届いたので、読了。インタビューを受ける前に連載突入していた閉鎖環境試験が、うまく現実の雰囲気を醸し出して感動的な感じで大団円。よかったよかった。あのハッチを開けて拍手される場面とか、試験官が「あの中で過ごした人の気持ちは、あの中でしかわかりません」と語るあたりは、ちょっとうるっとくるくらいの感動もんです。小山さん、佐渡島さん、うまくまとめていただいて、ありがとうございます。

実際の選抜とは違う課題がいろいろ出てたりしますが、そこはそれ、漫画ということで。

T-38がムッタの頭上を通過する場面とか、4Gシミュレーターとか、ムッタとケンジが握手する場面とか、ヒビトに先を越される吾妻宇宙飛行士の心理描写とか、脇役のキャラの立ち方とか、細かいところまでいちいち感動的です。この人間心理へのこだわり感が他に類を見ないところですねー。

彗星をめざせ

って、赤い彗星のことぢゃないですよ>某方面(www

本日のBGM - Holst- Jupiter, the Bringer of Jollity- The Planets Suite

松浦さんの

日経BPネット:浮上した日本の有人月探査計画(4)
日経BPネット:浮上した日本の有人月探査計画(5)

を読みながらうつらうつらと考えてみるに...

松浦さんの第4回の記事の最後のまとめのgdgdっぷりに一瞬どのように反応しようかと絶句してたけれど、さすが、最終回の締めは遠大な視点からうまく持ってきましたね。全く同感です。

「何が日本にとって、日本の国民にとって、なによりも日本の未来にとって最も良いことか」を問い続ける姿勢である。
 国際協力の中で「日本にとっての良いこと」を問い続け、実現するための基本的な枠組みが、「プログラム・オブ・プログラムズ」なのである。
ただ、米国は日本のロケット技術の動向と第三国への技術流出には神経を尖らせていると予想されるので、そのあたりをいかにオープンにかつ国家としての責任をもってコントールした状態で進めていけるのか、が課題ですね。

日本が独自の有人宇宙技術を持つ、というのはある種の悲願ですが、明治40年(1907年)の国防方針で海軍の仮想敵国を米国と設定して士官教育を施してきたことが後の大正11年(1922年)のワシントン海軍軍縮条約での艦艇の保有比率「英:米:日:仏:伊 5:5:3:1.75:1.75」に対する海軍士官の米英への反発の気運が高まる背景になったこと、などと考えあわせると、宇宙空間を決して第二の太平洋にはしない覚悟が必要になるでしょう。

たった100年前の出来事です。この歴史は繰り返したくない。

これは私の妄想ですが、米国、中国、インドなどの各国の一部の人々の頭の中にあるのは100年先を見据えたヘリウム3である可能性があります。それが現実的であるかどうかの議論はさておき、石炭、石油、ウランという発想の流れを延長すれば、次の足がかりとして月を目指す発想がどこかの文系の人の間でくすぶっていたとしても不思議ではないかもしれない。

オバマ大統領はこれに対し、グリーン・ニューディールという明確な政策の舵を切りました。いかにも民主党的な対立軸ですが、宇宙空間においてもこの政策はシーズではなくニーズとして有効に機能する可能性がある。なにしろエネルギー源は寿命あと50億年ほどもある天然の核融合炉ですからね。

このエネルギー革命が仮に成功するとすれば、地球上での当面の争点は食料、水、気候変動、海面上昇、シリコンや電子回路、触媒などの産業活動に必須のレアメタルなど。

月面探査というのは古典的でわかりやすい探検のアナロジーとして、いい練習問題だと個人的には思います。ただ、月面に水資源がなさそうとわかった今となっては、月でも小惑星でもなく、彗星をめざすオプションがあってもよいのではないかと感じています。

星間塵が集積して太陽系が形成される際の惑星の材料となった降着円盤では、太陽が産声を上げたときに水や酸素などの揮発性分はオールトの雲などの遠方に吹き飛ばされているはず。とすれば、地球型生物の活動に必須の水や酸素は、月や小惑星では得られない。太陽系辺縁から太陽の重力に引かれて落ち込んできて、木星の重力に捉えられたエンケ彗星などの木星族などの短周期彗星ではこれらの揮発性分がまだ蒸発している最中なので、ランデブー技術と採掘技術をうまく開発できれば有人宇宙活動の基盤として有効に機能するかもしれない。ヘリウム3もあるだろうし、なにより木星探査とエウロパの生命探査の拠点としても使えるかも... (^^;

戦争をしなくても資源を分け合えるような世界になれれば... いいのにな...

「人類にとっての良いこと」を問い続けましょうよ。

2009.03.24

若田さん、オバマ大統領と交信

帰宅してTwitterを開いたら、10分後にオバマ大統領がISSとシャトルのクルーと交信する様子をNASA TVで流すぜ、というNASAのアナウンスが。おお、なんてタイムリーな。

ということで、オバマ大統領と若田さんの交信の模様。

Iss7
Credit: NASA TV

Iss11
Credit: NASA TV

Iss12
Credit: NASA TV

ISSコマンダーのMike Finckeの声も懐かしい。10年前に最終選抜でジョンソン宇宙センターに行ったときは、ISSのモックアップを紹介してくれたアスキャンだったのに、いまじゃコマンダーだもんねえ...

シャトルの今回のミッションが太陽電池パネルの増設だったのにひっかけて、地上の太陽電池パネルをさりげに宣伝するあたりがさすが米国大統領だ。

NASA TVではいまから1時間後に日本のメディアとの記者会見だそうだ。

[追記]
NASA TV On Demand
View from White House @Facebook

2009.03.19

Twitter始めました

いまさら感満載ですが、どのようにつきあっていくかの方針を決めかねていたTwitterをついに使い始めました。背中を押してくれた某さんサンクスです。

marylynnedittmar.com: A Rising Tide

時間と空間の制約を超えてリアルタイムでみんなでわいわいと盛り上がることの楽しさは、ニコニコ動画で擬似的に体験可能でしたが、ケプラーやシャトルの打ち上げでそれを世界中の有名人たちとも共有できることを実感したのがコンバートの理由。

ということで、日本人宇宙飛行士たちの動向を英語でほそぼそとつぶやいてみる試みをしばらく続けてみます。

2009.03.18

根拠はないけれど...

日経BPネット:浮上した日本の有人月探査計画(2)

最近報道のあった日本の有人月探査計画に関して松浦さんが

宇宙分野を内閣府に持って行かれそうになっている文科省が、宇宙開発を内閣府に持って行かれることに対する牽制と「今、カードを切らずしてどうする」という意識とが組み合わさって有人月計画を出してきたという推測は、十分な整合性があるように思える。
という文章を書いていて、文部科学省が置かれている現状をおもんぱかるに、どうにも整合性を欠く議論だなぁと思っていたのだけれど、ふと気づいたことがある。

その前に松浦さん情報のまとめを。

・宇宙開発戦略本部事務局が、3月6日の宇宙開発戦略専門調査会・第5回会合に「先端的な宇宙開発利用の推進について(宇宙科学、有人宇宙活動、宇宙太陽光発電等)」という文書を提出した。
・その内容はこれまで文部科学省・宇宙開発委員会で審議されたり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が提案してきた長期ビジョンなどと矛盾する点が多い(松浦談)
・官僚は、文書間の矛盾には敏感であり、可能な限り避ける。
・過去の文書との矛盾を放置したかのような文書を出すというのは、この文書が内容を十分練り上げる時間的余裕なしに作成され、会合に出てきたことを示唆する。

ここまでの情報は、今回の動きの震源地が文部科学省である可能性は希薄であることを示唆する。

・(松浦氏が)各方面に聞いてみると、今回の有人構想は、2009年に入ってから急に動き出したものらしい。
・同文書提出前後にJAXA内では上層部から現場に「現在保有する有人技術の種はどれか」という問い合わせが回ったらしい(松浦談)。

この状況から、JAXAにとっても寝耳に水の事態だったように見える(よくあることではあるけれど)。

で、気づいたこと、というのは、オバマ政権が発足してヒラリー・クリントン国務長官が初めての海外訪問先として日本を選んで2月16日に羽田空港に降り立った時のこと。この時、日本の女性宇宙飛行士、向井千秋さんと山崎直子さんが歓迎式典に出席したとのニュースが流れて「へぇ」と感心していたものだった。

この時、向井さんや山崎さんに出席を要請したのは誰か。海外からの要人の接待は内閣府や外務省マターであって、JAXAや文科省の舞台ではない。

ではなぜ向井さんと山崎さんが出席する必要があったのか。

ここから先は推測ですが、この時アメリカ側が麻生首相サイドに議題として持ち込んだパッケージの中に、「NASAの有人宇宙開発に参加する」という形の経済協力の要請があったのではないか。

100年に一度という未曾有の経済危機に見舞われているアメリカにとって、経済再建は最優先課題。事前の予測でもクリントン長官が日本に米国債の大量引き受けなどあの手この手の様々な経済支援を要求してくるのではないか、との観測が流れていた。

思い起こせば、日本の有人宇宙開発は1984年のロン・ヤス会談でスタートした。

宇宙と原子力、日本の安全保障と因縁の深い科学技術庁の栄枯盛衰の歴史と、さらに因縁の深い中曽根一族への取材敢行を希望します>だれ

一方私はこんな文書を解読中。本業が忙しいので遅々として読み進められないのだけど。

Wikileaks: Change you can download: a billion in secret Congressional reports

アメリカ議会の調査部が作った非公開の報告書だったものがネットで見られる。こういう文書が誰にでも見られる動きがあるところがいかにもアメリカ的民主主義だ。

重要なのがこれ:

Wikileaks: Congressional Research Service Report RL34487 - Japan’s Nuclear Future: Policy Debate, Prospects, and U.S. Interests

特に極秘情報などはないけれど、アメリカが日本の核開発についてどのように分析しているのかが第三者的視点でまとめらていて興味深い。

糸川博士と中曽根元総理との間になにがあったかについてもぜひ関係者ご存命のうちに。

2009.03.09

若田組、発見!

昨日のNHKスペシャルの番組がきっかけとなって、「MS友の会(若田組)」の方のブログを発見。

広島 科学教育3団体共通ブログ: 宇宙飛行士選抜試験で得られるもの

また、4月中旬には全世代が集まっての交流会も企画されています。
はい、そうなんですよね。よろしくお願いします。

私は宇宙飛行士にはなれませんでしたが、こうした生涯の友人が何人も得られた、ということだけでも試験を受けに行ってよかった、良い経験だったと思っています。
同感です。

若田さんのスペースシャトルの打ち上げ準備も順調のようですね。

FLORIDA TODAY: Weather looks good for Discovery's launch

An Air Force weather forecast issued Sunday was promising, showing a 90 percent chance of good conditions during Wednesday's 10-minute launch window.

今回選抜された油井さんと大西さんと同期になるはずのNASA側の宇宙飛行士選抜も現在最終面接の段階ですが、候補者がまだ40人ほどいるようです。さすがにNASAは大所帯やね。選抜に応募し(すでに落ち)た候補者の一人、Brian Shiroさんのブログをある人から教えてもらいました。

最終選抜に進んだJack Fischer (別名:2fish)さんの記事が掲載されています。

Brian's Blog: Astronaut for Hire: Jack Fischer's Astronaut Finalist Interview

Our group treated the colon prep as a bonding experience, and as silly as it sounds, it was probably one of the most memorable parts of the whole process. Doing laxative shots out of NASA shot glasses, while we all sat around watching The Right Stuff and making fun of each other's frantic waddling to the bathrooms - it definitely made the process a lot more fun than solitary toilet worship. Someday, when a couple of these people are walking on the moon, I'll have a great story to tell the grandkids...

大腸内視鏡検査(colonoscopy)のためにNASAのロゴの入ったショットグラスで下剤(laxative)を飲み、映画「ライト・スタッフ」をみんなで見ながら、時折アヒル歩行(waddling)でトイレに駆け込む有様なんて、こいつらとは国籍を超えて生涯の友達になれそうだ。(www

管理人の永らくの夢だった、全世代の選抜友の会の会合がもうすぐ実現するけれど、この際、海を越えてアメリカやロシアの同士たちともぜひ仲良くなりたいもんだ。

It's a small world!

2009.03.08

なぜパイロットが選ばれたのか?

ホシボシヲあ~かいぶ:危うい有人宇宙計画への反応

シンポジウムに出席していたJAXAの立川敬二理事長が、今回選出された宇宙飛行士2名についての質疑応答で、日本が有人宇宙活動を目指すことと選出された二人の前職がパイロットであることは関係がないとする旨の発言をしたとのこと。
こういう発言が出るとかえって怪しいと思われても仕方ないと思うんですけど、どうなんですかね?

松浦さんのところとか野尻さんのところで議論というか妄想がちょっと暴走気味ですね。プロの物書きの松浦さんまでが推測だけで記事を一本書いちゃってるし。

日経BPネット:10年振りの宇宙飛行士選抜はパイロット2名 独自有人飛行への布石か

私自身、自分の記事

ある程度予感はありましたが、JAXAもずいぶん思い切りましたね。この方たちが育ててくれるであろう、さらに次の世代の宇宙飛行士に期待をかけておられるようにも見えます。
などと、陰謀論に燃料を投下するような発言をしてしまったものだから、その責任を取る意味で、私の知る範囲のことをここにまとめておきます。情報のソースがどこか、とかは、聞かんでください(w

私自身が知っている事実:

・パイロットや自衛隊関係者が宇宙飛行士選抜を受験したのは今回が初めてではない。11年前と14年前の2次選抜、3次選抜にもこれらの人たちはいて、いずれもいつ選抜されてもおかしくないような優秀な人たちだった。
・宇宙飛行士の選抜は選考委員会の委員によって審議される。委員にはJAXA理事長、理事、本部長、部長などのほか、宇宙航空医学の医師、精神医学や心理学の専門家、現役宇宙飛行士、元宇宙飛行士、宇宙や科学技術に造詣の深い外部有識者など、多数の人間がいる。JAXAだけが独走することはできないし、政府機関以外の関係者も多い。
・最終候補者に対してはNASAとJAXAの宇宙飛行士も面接を行う。

直接の体験ではないが信頼できる筋からの情報:

・今回の最終選抜に残った10名は、医者、技術者、パイロット、自衛隊、海上保安庁など。いずれもいつ選ばれてもおかしくない優秀な人ばかり。
・今回はNASAの宇宙飛行士選抜と同じNASA側の面接を一人あたり1時間ほど受けた。他にもパイロット訓練施設やヒューストンの宇宙飛行士訓練施設で実際の訓練に基づく実技試験が課された。
・今回もっとも重視されたのは閉鎖環境における心理学的特性である。
・今回の選抜試験の試験項目には現役の日本人宇宙飛行士が自分たちの経験に基づく様々な提案を加え、前回の試験と比較すると大幅な改良が加えられている。
・着衣で重りをつけて靴を履いての3010分間立ち泳ぎが今回から追加された。海猿〜

報道や書籍などで周知の事実:

・毛利さんたち初代日本人宇宙飛行士は、スペースシャトル内で科学実験を行うペイロードスペシャリストとして採用された。
・NASAのミッションスペシャリストとして採用された宇宙飛行士にとっては、ペイロードスペシャリストは自分たちの宇宙行きの切符をうばってしまうライバル的存在であり、ペイロードスペシャリストのことを「お客さん」と呼ぶ。
・NASAの宇宙飛行士には海軍や空軍のエリートテストパイロットが多い。次いで医者や科学者、技術者など。
・NASDAは若田さん、野口さんをミッションスペシャリスト候補者として採用し、NASAのミッションスペシャリスト候補者訓練コースに(費用を払って)送り込んだ。その後、毛利、土井もミッションスペシャリストの資格を取得。
・NASDAは1998年の選抜では「日本で訓練を行う宇宙飛行士」として古川、星出、角野(山崎)を採用したが、2003年のコロンビア号の事故を受けて国際宇宙ステーションのスケジュールが延期になったことに伴い、ロシアとNASAの宇宙飛行士訓練コースに参加し、資格を取得した。

信頼できる筋からの情報と報道などから得られる情報を過去2回の受験体験と照らし合わせて私なりに推測すること:

・今回の宇宙飛行士選抜はNASAが数年ぶりに復活させた宇宙飛行士募集にあわせて行うことをJAXAの立川理事長が2007年末〜2008年初頭に決断した。その主たる理由は宇宙飛行士の訓練に必要な予算の節約である。
Kazuさんのブログにある東京シンポジウム 「宇宙と人間」−未来を拓く人類の活動領域の拡大−で立川理事長が「(日本が独自の有人宇宙活動を目指すことと二人がパイロットである事実とは)関係ない」と断言していた、というのは、まさしく理事長の本音であり、誤解されるのは片腹痛いこととお察しします。
・NASDA/JAXAは、宇宙飛行士選抜を行うたびごとに、どのような人材をとるのが適切なのかを現場レベルで真剣に悩んでいます。今回の選抜では、若田宇宙飛行士のこれまでのフライトや海底での長期滞在の訓練で得られた知見などが大幅に適用されているように見受けられます。特にロボットアームの操作に必要な判断能力と反射神経、閉鎖環境に外国の人間と長期滞在する際のリーダーシップとフォロワーシップ、シャトルが退役した後のソユーズなどでの宇宙への往復に伴う肉体的にも心理的にも過酷な訓練に耐えていけるか、などが重要視されたようです。もちろん成人病でないことや精神医学的にみて健康であることは基本中の基本です。

現場レベルに近い立場から今回の妄想劇を見ていると、相当に滑稽です。今回、宇宙開発戦略本部が有人宇宙開発構想を専門調査会に提案したのは全く独立の動きと思わざるを得ない。

でも、事実がどうであったにせよ、偶然が重なって世間が誤解あるいは期待したのであれば、それはそれで甚大な結果と言えます。また、この偶然をうまく利用しようとする動きがもしあるのであれば、それはそれで警戒するべきです。

今回、NHKのディレクターが選抜の模様を逐一取材したのも、全く偶然のきっかけです。しかしそのおかげで、宇宙飛行士選抜という、これまでは秘密のベールに覆われてきたプロセスの一部始終がNHKのカメラに収録されたのも、事実です。

みなさん、陰謀論で心の眼に色眼鏡をかけてしまうことなく、今夜9時からのNHKスペシャルをぜひご覧ください。番組で紹介されるのはそのごく一部ですが、現実が記録された生テープがNHKの倉庫の中に眠っています。

足なんて飾りです?

頭ん中:ジオングの整備兵は「足なんて飾りです」とは言ってない

へぇ、わたしゃリアルで見ていた世代だけど、覚えてなかった。orz

それはさておき、宇宙開発戦略本部が非公開で開いた専門調査会で毛利衛日本科学未来館長が「日の丸人型ロボット月面歩行計画」として、日本の優秀な二足歩行ロボット技術を活用する案を提出したらしい。まさに「偉い人にはそれがわからんのですよ」と天を仰いで嘆息したくなるような、マンガチックな展開。事実は日本サンライズより奇なり?!

業界周辺の評判はこれがまたすこぶる悪い。

SPACEREF: 2009-03-06 ロボット月探査、有人船検討=コストは今後議論−政府宇宙本部

ただ何故に二足歩行のロボットが月に行くのか意味不明だ。月探査を行う目的が明確ならば、二足である必要性はなくなる。少なくとも欧米の月探査ミッションシナリオに当てはめても、2足歩行ロボットの意味は全く不明だ。人間型ロボットの場合、月面や宇宙空間で要求される機能は「足」ではなく、上半身だけのはずだ。二足歩行は他の惑星では意味をなさない。

野尻ボード:野尻抱介 日本の惑星探査、存亡の危機
あと毛利さんが言い出した、二足歩行ロボで月面探査というのも勘弁してほしい。一般受けはするでしょうが、そんな道楽をしている時じゃないでしょう。

そりゃ常識的に考えて、信頼性と軽量化と遅れがちなプロジェクトのスケジュール通りの遂行をなによりも是とする惑星探査の立場からすれば、二足歩行なんていつになったら実現するかわからない悪夢のプロジェクト以外の何者でもない。

でもね。

5年先とか10年先とかに、探査ロボットを月面に送って、その予算は国民の血税だから100円でも1円でも安い開発を目指して有効に仕上げなければならない。どんな失敗も許されない。

という発想なのであれば、その常識は正しい。

でももしもゴールを20年先、30年先に設定して、そのときに日本が「ものづくり」でどのような国際的リーダーシップを発揮しているだろうか、という夢想をするとき、噂されている一兆円だか二兆円だかの国家予算を今後10年間程度に平滑して、ホンダやトヨタやサイバーダインや産総研に「委託研究」という法的縛りのもとに適正に執行できるのであれば、そしてその執行された予算を確実に査察することができるのであれば、これはじつに賢い国家戦略といえるのだと思う。

たしかに6分の1の重力(月面)や3分の1の重力(火星)でもまともに動作するロボットを作ったとしても、地球上の人間には一見、なんのメリットもない。レゴリスという月面や小惑星の表面を覆っている、角の尖った細かい砂は、エルアラメインの戦いでドイツ軍戦車の整備兵を泣かせたサハラ砂漠の砂と同様、ロボットの研究者にとっては悪夢のような存在だ。

しかしその難問にチャレンジして乗り越えることのできた技術者は、20年後や30年後、40年後に日本の経済発展を支える屋台骨となってくれるだろう。「日本製ロボット」が世界のどんな過酷な場所でも確実に動作する製品の代名詞として、ブランドイメージが定着することになる。

スピリットやオポチュニティなどの車輪で駆動する惑星探査車は経済的で確実で安定しているが、未整地のごつごつした土地や傾斜地での行動が苦手という決定的な弱点がある。地球上でも、地下でも、あるいは深海底でも、あるいは地雷除去や災害現場での重機操作でも、人間のために設計されたものをロボットに操作させたい場面は今後、飛躍的に増えてくる。いや、増えてくるとみんなが信じないうちに技術を開発して市場を席巻した方が戦略上有利だ。

人間は二足歩行によって両手を自由に使えるようになり、脳の神経細胞の手をコントロールする部分が飛躍的な進化を遂げた。自転車やオートバイは、タイヤが2本しかないという不安定で不完全な乗り物であるがゆえに、多くの自由度を利用するものに提供してくれる。

私がもし惑星探査の研究者であれば、この動きをてこに学会を設立して、日本や世界の名だたるロボット研究者を一堂に会した国際会議を開催し、あわよくばJAXAとは独立の研究開発センターを設立するだろうな。そして糸川博士のようにやんちゃで扱いづらい20代から30代の若者を5,6人集めてきて、口角泡を飛ばして机を拳で叩くほどの熱い議論を闘わせる環境を提供する。

Not because they are easy, but because they are hard. (c) John F. Kennedy

時代は君たちのためにあるのだよ。その手でつかみとりなさい。

日本の惑星探査

「ああ、やっぱり」という気持ちと「はたして今がほんとうにその時期なのですか?」という気持ちと「その関係者は真相をどこまで詳しくかつ客観的にご存知なのでしょうか?」というところでしょうか。

私自身はアポロ世代であると同時に、プロジェクトXが見事にスルーしたおおすみ世代でもあるので、ラムダロケットおおすみさきがけすいせいはやぶさの偉業は大好きです。小田稔先生のすだれコリメーターによる白鳥座X-1の同定やその人柄にもすっかり感服しているし、早川幸男先生も素晴らしい研究者でした。

個人的には「日本の宇宙開発で内外からもっとも高く評価されている」という評価はISASに関する限り、はるかあすかひのでぎんが、などに与えられるべき、と考えており、これらは「世界で一番であることがなによりも重要視される」をまさに体現してきたプロジェクトでした。

これらの華々しい成果と比べると、のぞみやはやぶさはシステム工学的には発展途上の探査機であり、失敗学の観点からも慎重な再検討の余地が大いにあると感じています。それでものぞみが送ってくるはずであった火星の画像に期待し、はやぶさのタッチダウンに我がことのように興奮することができたのは、これらのプロジェクトに関わった人たちの、未知の領域へのチャレンジ精神に感動することができたことと、人類がまだ誰も見たことのなかった世界を見せてくれた、という、惑星探査の要素が大きかったからだと自分なりに理解しています。人間という生物は、活動の領域や行動の可能性を広げてくれる「探検」という行為が本能的に好きなのです。

以前、JAXA内部に「月・惑星探査プログラムグループ」が発足した、というニュースを聞いたとき、私はJAXAの組織図でこのグループがどこにどのように位置づけられたのかを確認してみて、「ああ、これはまずいな」と思いました。

JAXAは本部制をとっているので、経営企画部や情報システム部などが属する管理部門と、

・宇宙輸送ミッション本部
・宇宙利用ミッション本部
・有人宇宙環境利用ミッション本部
・研究開発本部
・宇宙科学研究本部

の5つの本部の他に

・航空プログラムグループ
・月・惑星探査プログラムグループ
・情報収集衛星システム開発グループ

の3つのグループがあります。

このうち航空プログラムグループの統括リーダは理事が兼任となっていますが、月・惑星探査プログラムグループの統括リーダはなぜかシステムズエンジニアリング推進室の情報化統括の方が兼務されており、理事から2ランク下がり、かつ管理部門の方が担当になっています。

これが何を意味するのかというと、月・惑星探査プログラムグループと理事会、執行役員会の間を取り持つパイプがきわめて細く、意思決定や組織運営におけるお互いの意思疎通がきわめて希薄であるように見えるということです。「独立性の高い自律的グループ」と言えば聞こえはいいですが、科研費やCREST, NEDOなどの競争的資金を自力で確保する覚悟がない限り、この組織図上の立ち位置では活路が見出せないように見えてしまいます。

私の個人的感想を言えば、「月・惑星探査」はその名の通り「探査」あるいは「探検」であって、「科学」と「宇宙開発」の中間に位置づけられるべき存在だと思います。つまり、世界初の成果だけが価値があるのではなく、またその成果は人類共有の知識の蓄積、というわけではありません。日本が独自にその技術を習得することにこそ意味があり、かつまた、過去半世紀にわたる惑星科学や太陽系形成の謎の理解が飛躍的に進化したことにより、太陽系内のどこにどのような資源があるのか、それらの資源を利用するにはどのような技術を開発しなければならないかを、今後半世紀もしくは1世紀にわたるビジョンで描き続けていくべきものと考えます。

JAXAの理事か執行役のどなたかに月・惑星探査プログラムグループの統括リーダを兼任していただくか、せめて経営企画部や情報システム部の責任者に探検の夢を共有してもらう必要があるでしょう。

特集:一流の事務部門を目指す
理研を日本の研究機関のモデルにしたい

事務部門にそっぽを向かれた研究者は、手足をもがれたも同じです。

2009.03.07

なめんなよ

な、なめ猫復活... wwwww

両"ヤイリ"の昔と今

今から30年前、高校三年生になってそろそろ受験勉強も本格的に始めなければなぁ、と、心理的になんとなく追いつめられていた頃、友人たちがやっていたフォークバンドの練習場所に入り浸ってアコースティックギターの生の音色に魅せられてしまった。

なにをトチ狂ったのか、それまでまったく音楽のおの字も知らなかったのに、よせばいいのに親にも内緒で貯金をはたいてフォークギターを買うことに決めた。悪友を誘って楽器店に行き、そこそこの値段で買えるいいギターはどれか、と、品定めをお願いしてみた。

当時のにわかフォークギター少年にとってみれば、石川鷹彦さんの「フォークギター入門」がバイブル的存在。アメリカのMARTIN社のヘリンボーンドレッドノートがあこがれの楽器だった。

「それならいいギターがある」といって、その悪友に勧められたのが「S. Yairi」とシンプルに書かれた国産ギター。雰囲気もサイズもMARTIN D-28そのもの。

その日以来、家には持ち帰れないので、ギターケースに入れて学校の教室のロッカーの上において、放課後に独り教室で、時には悪友たちとかわりばんこに、弦をかき鳴らすことになる。思えば、スタジオジブリの幻の名作「海がきこえる」を地でいくような、自由でいい高校だった。体育祭のときの学校側と生徒との衝突もまさにあの映画のまま。

自分自身のギターの腕前はついぞ上達しなかったが、S. Yairiがかなでる音色は悪友たちにうらやましがられ、コンサートのたびに彼らにかり出されては聴衆を魅了した。卒業式のあとのクラスでの茶話会で、そのギターを引っ張りだしてきてビートルズの「Yesterday」を弾き語りしたのが、後にも先にも人生で一度きりのコンサートの経験となった。

そんな過去の記憶を呼び戻すきっかけになったのがこの記事。

日経ビジネスオンライン:解雇、増産、定年なし“たわけ”の哲学

「そういえばK. Yairiというブランドもあったな。K. YairiとS. Yairiの違いってなんだ?」と思ってググって見たら、こんなページを見つけた。

2つのヤイリ

さて、以上に書いたことを、幾つかの事実誤認が含まれることは覚悟の上で誤解を恐れずに総括するならば…、 創業当時は 『保守的堅実経営の “S”』に対し 『先進的チャレンジ経営の “K”』 という形で反目していたものが、現在では、 『商業的大量生産主義の “S”』 に対する『職人集団による国産手工主義の “K”』 という図式の反目に逆転した…、 と理解していた。ところが、この稿を書いて今一度両社の現状を振り返るに、“新生 S.YAIRI” の目指すところは『リーズナブルで本格的なギターを供給し、若い世代に裾野を広げたい』 という思想であり、“K.YAIRI” については、『確かな技術、確かな品質を後世に残し、世界に誇れるギターを作り続けたい』 ということではなかろうか…。そのためには、伝統の枠には収まらないチャレンジャブルな試みも極めて重要なのであろう。
うーむ、そういうことだったのか。30年前のじぶんはS. Yairiの朴訥で飾らない、自己主張をしないのに存在感がある重厚さが好きだったのに、50に近くなった今、若者を育てていくためにはK. Yairiのような息の長いチャレンジにも価値があったことがよくわかる。

ギターの弦の12フレット、7フレット、5フレットをそれぞれ指で軽く押さえて弦を弾くと、ハーモニクスと呼ばれる高い音程の独特の音が出る。絶対音感がない人間にとってはハーモニクスはギターを手っ取り早くチューニングするための簡便な方法だけれど、このハーモニクスは物理や工学の観点から見れば2次、3次、4次高調波になる。ロケットや橋や高層建築を設計する人間にとっては高調波の存在は必須の基礎知識だ。九州の東シナ海沿岸で先月末に大きな被害を出した「あびき(副振動)」と呼ばれる現象も、東シナ海やそれぞれの湾での固有振動周波数が重大な意味を持つ。YouTubeでも見られる「タコマ橋の崩落」は失敗学の教科書ならどれにでも出てくるくらいの記憶に残る事件となっている。

命をかけて戦地に赴くパイロットたちと酒を酌み交わしながら陸軍の隼戦闘機を設計し、戦後、GHQに航空機の開発を禁じられると、東大で日本初の人工衛星の打ち上げを目指し、その夢の達成直前でマスコミとの確執により東大教授の職を辞した糸川英夫博士が晩年愛したのがバイオリンの設計だったと言う。ロケットの機体を設計する際の固有振動周波数の計算とバイオリンの音色との調和が博士の心を魅了したのだろうか。

某元社長のブログによれば、糸川博士というのはなかなか個性が強烈な方だったようだ。あれから30年。東大教授の先生方ともさまざまなおつきあいをせねばならぬ立場になったとはいえ、当時を彷彿とさせるような強烈な個性の持ち主はさすがに少なくなってきて、いまや絶滅危惧種とも言える。

扱いづらい天才。頑固一徹の"たわけ"職人。

ふと、日本という国の来し方と行く末について、つらつらと思う。

[追記] S. YairiとK. Yairiの開発哲学の違いって、某NASDAと某ISASの...(以下略

[追記2] Wikipediaで糸川博士の経歴を改めて見直していたら、博士が東大を退官されたのは1967年、54歳のときだったのですね。ということはNASDAがらみで科技庁の宇宙開発推進本部との間でかなりのすったもんだがあった時期ということに。糸川博士の退官の理由を的川先生は「銀座のママを巡る新聞記者との確執」と述べておられるようで、私もそう信じてたんですが、実際にはもっとドロドロしたものがあったのかも...? 中曽根元総理に直撃取材してみませんか>松浦さん?

2009.03.05

NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた」

今朝のNHKニュース「おはよう日本」でついに日本の宇宙飛行士選抜試験のファイナリスト10名がテレビで放映されました。史上初!

Nhknews(c) NHK

以前、NHKの方からご相談をいただいたとき、前回のファイナリストたちと相談して真っ先に心配したのが受験生のプライバシー確保でした。募集の際にはまだ番組企画自身が存在しなかったので、当然募集要項にはなにも書かれてなく、JAXAとしては後だしじゃんけんになったわけですが、結局「メディア対応も宇宙飛行士の資質の一つ」ということで、最終選抜に進んだ10名は選抜の様子の収録と放映に同意された、ということですね。補欠の方はこれで心理的にかなり苦しい立場になると思うのだけど、大丈夫ですか?

Nhknews2(c) NHK

選抜試験の詳しい密着取材をまとめたNHKスペシャルの放送は日曜日夜9時です。皆様お見逃しなく。

2009年3月8日(日) 午後9時00分〜9時49分
NHK総合テレビ
宇宙飛行士はこうして生まれた
〜密着・最終選抜試験〜
http://www.nhk.or.jp/special/onair/090308.html

ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターで行われた訓練や面接の様子など、世界初の映像も放映されるとのことなので、楽しみですね。

I先生がちらっと映ったのがちょっとびっくり。某ブログを読んでいたので代替わりかと勝手に誤解してました。いまでも当該分野第一人者としてご活躍のようでなによりです。日本人宇宙飛行士の面接の場面では、メンバー全員を知っているので、なんか不思議な気分。受験のおかげでたいていのことには驚かなくなってしまった。

個人的には、閉鎖環境試験の映像がとてつもなく懐かしい。今でもあの瞬間の一瞬一瞬にタイムスリップ可能です。

「宇宙か。なにもかもみな懐かしい」

zeitgeist

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