前回からの続き
過去4回の宇宙飛行士選抜のうちの3回目と4回目を受験した経験をもとに、今回の選抜がどのような経緯を辿るか、宇宙飛行士を目指すとはどういうことか、について解説してみます。もちろん、選抜に落ちた人間の予想ですから、内容が正確であるという保証はどこにもありません。(^-^;)
Web 2.0時代の宇宙飛行士
JAXAは旧NASDA時代にこれまで4回の宇宙飛行士選抜を行っています。1回目が1984年、2回目が1991年、3回目が1995年、4回目が1998年です。このうち1回目と2回目はインターネットがまだ普及していない時代だったので、募集に関する情報はもっぱらテレビや新聞などのマスメディアによって伝えられました。3回目の1995年は旧NASDAがwebサイトを設置してから初めての募集で、受験者は自分の住所を記した返信用封筒を旧NASDAに送付して、応募書類を取り寄せました。4回目の1998年は旧NASDAのwebサーバーにCGIが設置され、受験者はフォームに住所氏名を記入すれば書類を取り寄せることができました。5回目にあたる今回の募集は、書類そのものが電子化され、世界中どこからでも瞬時に取り寄せることができるようになった初めてのケースです。
3回目の選抜で二次試験が実施されたのは、年が明けて1996年の1月から2月にかけて。二次試験を終えてほっとした受験生たちは、お互いに電子メールアドレスを交換し合い、試験の直後から自己紹介や様々な情報交換を始めました。この集まりが5thstarとなったわけですが、当時は電子メールの普及率が受験生の間でもまだ90%に満たない時代で、三つの班に分かれた受験生はそれぞれ連絡係を決めて、メールで連絡のつかない自分の班の受験仲間に電話や郵便で状況を伝えていました。
余談ですが、この時、2班で連絡係を務めていたのが野口さん、3班は私で、3班には星出君もいました。
最終的にメンバー全員が電子メールアドレスを取得し、連絡網ができあがるまでにはそれから数ヶ月を要したわけですが、5thstarは「Web 1.0の時代とともに宇宙飛行士選抜を体験した世代」ということになります。受験生同士、プライバシーの確保には最大限の努力を重ねていました。受験生側も旧NASDA側もネットの利用についてあまり深く認識していなかった、のどかな時代でした。
4回目の選抜で私はモバイルギアという携帯情報端末と携帯電話、データ通信カード、デジカメなどを持ち込みましたが、試験期間中は試験の内容に関する外部との連絡は当然禁じられていました。
それから10年。携帯電話の性能は驚くほどに進化し、写真、メール、web、いろいろな機能をいまやごく当たり前に使うことができます。ムーアの法則万歳。3G携帯万歳。ブログやSNSやTwitterやYouTubeのようなプラットフォームも進化しているので、誰でも自由に動画、静止画、チャット、メールなどで簡単に情報発信することができます。
JAXAとしては当然、受験内容や他の受験生のプライバシーに関わるような情報発信を固く禁じるでしょうが、自分の情報を本人がブログや匿名掲示板などに書き綴った場合の処置をどうするかについては、頭が痛いことと思われます。実名ブログの場合はまだしも、匿名掲示板やTwitterやircやチャットなどになってくると、もはや全貌をつかむことも難しそうです。今回の選抜は過去に類を見ないほどの困難な情報管理が求められています。
他方、JAXA側の対応もまた、過去に類を見ないものとなりそうです。もし受験生が以前からブログを記していた場合、選抜側から見れば、その人物の人柄や性格を見極める貴重な情報源となりそうです。しかし、他の受験生との公平性を考えると、考慮の対象とするわけにはいきません。かといって、もしそのブログの記事に反社会的な記述があったり、JAXAや他の組織を公然と批判するような記事があったり、あるいは特ダネのネタになりそうな恥ずかしい記述があったりした場合に、それを見逃して選抜してしまったりすると、JAXAとしては大きなリスクです。
目につくブログだけを検閲するわけにもいかず、放置するわけにもいかず、JAXAがどのような対応を取るのか、今回、注目されます。
ここから先は私の推測ですが、二次選抜を受験する50名程度の受験生に対し、ブログなどにおける情報発信の注意書きのようなものが手渡され、三次選抜を受験する際にはブログやチャットを利用しているかどうか、一人一人にアンケートが実施されるのではないかと思います。
もしこの記事を読んでいる受験生の中に、ご自分でもブログやTwitterをやっておられる方がおられたら、自らの情報発信について「宇宙飛行士として選ばれたとしても恥ずかしくないかどうか」再考してみられるのもいいかもしれません。
私の場合は、5年前、コロンビア号の事故を受けて5thstar.orgを設立するかどうか、大いに悩みました。私にとっては、このブログに記事を書き続けることは、当時のNASDAに対して「もの申す」ことであり、「宇宙飛行士になる夢をあきらめる」ということを意味していました。私にとっては重い決断だったのです。
本気で宇宙飛行士になりたいのであれば、自分自身が公の場でどのような発言をするべきか、よく考えましょう。選抜が始まろうとしているこのタイミングが、まさにそのチャンスです。
(続く)
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