« アーサー・C・クラーク氏逝去 | Main | STS-123帰還 »

2008.03.20

宇宙飛行士になるには(7)

前回からの続き

過去4回の宇宙飛行士選抜のうちの3回目と4回目を受験した経験をもとに、今回の選抜がどのような経緯を辿るか、宇宙飛行士を目指すとはどういうことか、について解説してみます。もちろん、選抜に落ちた人間の予想ですから、内容が正確であるという保証はどこにもありません。(^-^;)

メンタル・トレーニング

NASAの宇宙飛行士だったマイク・ミュレインの著書「ライディング・ロケット(上) ぶっとび宇宙飛行士、スペースシャトルのすべてを語る」の冒頭部分では、NASAの宇宙飛行士選抜のプロセスの中で精神科医の面接を受けて、「この質問にはどのように答えるのが合格への近道となるのか」と、得られるはずのない手がかりを求めて、一瞬の間にそれまでの自分の人生のすべてが走馬灯のように脳裏によみがえる場面が出てきます。私も旧NASDAの選抜で、まさしくこれと同じような体験をしました。

「宇宙飛行士になりたい!」と熱望しながら試験を受ける受験生にとっては、どんなささいな検査でも質問でも、すべてがパーフェクトでなくてはならない、という、一種独特の精神状態になります。その結果、「この検査項目で相手は自分の何を調べようとしているのだろう?」とつい疑心暗鬼になったりすることもあります。

旧NASDAの試験項目の中には、筆記による心理テストや、精神科医や心理学の専門家による面接、検査器具を使っての単純労働を続けた時のパフォーマンスの変化、などなど、様々な手法で受験生の心理適正や精神状態を検査するものがあります。

一次試験の段階では筆記による簡単な心理テストだけなので、普通の精神状態でなるべく正直に回答するように心がければ、まず問題はありません。しかし、もしこの段階で嘘をついて次のレベルに進むことができたとしても、専門家との詳細な面接や、検査器具を使っての作業の様子の精密な観察などが待ち受けています。以前のテスト結果との矛盾点が浮上すれば、容赦なく質問攻めにされます。小手先の技術を磨いただけではとてもこれらの検査を矛盾なく乗り切ることなどできません。では、まったく受験対策がないのかというと、そうでもなくて、一つできることがあります。

それは、自分自身の性格を「誰が見ても恥ずかしくないような宇宙飛行士」に変えてしまうことです。

もっと正確に言えば、「宇宙飛行士にふさわしい人間として自分自身を高めていく」という自己暗示をかけてしまうことです。

自己暗示にはいろいろな方法があると思いますが、私の場合は「自分がもしほんとうに宇宙飛行士に選ばれたとしたら」という目線で様々な映画を見たり本を読んだりすることが役に立ちました。

例えば選抜試験の合間に萩尾望都原作の「11人いる!」という漫画を映画化したものを観た時は、実際の選抜の手法とはまったく違う場面にも関わらず、「なるほど、あの検査ではこういう資質が求められているのか」などと一人で納得したりしました。

「ライトスタッフ」や「アポロ13」なども、選抜試験の合間に観たりすると、それまでとは全く違う視点が得られたりして、新鮮な気分になります。ヒストリーチャンネルやナショナルジオグラフィックチャンネルなどで放映される航空機事故の調査や潜水艦事故の救出などのドキュメンタリー番組を見るのも、英語力のトレーニングの他にも、メンタル面を強くする効果があります。

宇宙飛行士には、誰とでも仲良くなれる協調性が求められますが、もう少し詳しく見ると、「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」あるいはその両方の適度なバランス、が、求められていることがわかります。「リーダーシップ」とは、あるチームをまとめて引っ張っていく役割、「フォロワーシップ」とは、リーダーをもり立てていきながら、チームの最終目標を達成していく役割のことです。冬山登山やバディとの潜水を経験したことのある人であれば、その重要性はおわかりと思います。

旅客機の機長と副操縦士がコックピット内でどのようなチームワークを保てば安全を保つことができるか、という分析も進んでいます。旧NASDAのスタッフの一人に教えてもらった機長のマネジメント—コックピットの安全哲学「クルー・リソース・マネジメント」という本は、チームワークと安全性との関係を冷静に分析していて、とても参考になりました。

宇宙飛行士という職業は、お手本になる人が身近にはいない、とても特殊なものです。さまざまな困難に直面した時に、自分だけで解決策を見つけて困難を乗り越えていかなければならないことがあります。ある意味では、イチローやタイガーウッズ、オリンピックのトップアスリートたちだけが直面するような、「ベストの自分をイメージする」というメンタルトレーニングが必要な世界とも言えます。スポーツとは全く縁のなかった私にとって、「日本人のメンタル・トレーニング」という本は、私のメンタル面に大きな影響を与えてくれました。

つまるところ、私は選抜に落ちてしまったので、これらのメンタル・トレーニングがどこまで有効だったのかはよくわかりません。でも、私のその後の人生にはとても役に立ったと感じます。宇宙飛行士受験がなければ、これらのトレーニングをする機会はなかったでしょう。

(続く)

« アーサー・C・クラーク氏逝去 | Main | STS-123帰還 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 宇宙飛行士になるには(7):

« アーサー・C・クラーク氏逝去 | Main | STS-123帰還 »

zeitgeist

MyBlogList

無料ブログはココログ