お月様のおかげかな
管理人は長沼センセイと同世代だから、「はじめ人間ギャートルズ」なんていうやたらマイナーなTVアニメの裏主題歌の雰囲気はとても大好きだ。チュニジアの大砂漠まで辺境微生物の採集に出かけるセンセイの行動力と、地球の地の果てでこの裏主題歌を突然おもいだしたりするフィーリングがとてもウケる。少なくとも「美しい日本」という曖昧な言葉で国民に愛国心を醸成して価値観を植え付けようとするどこかの国の前首相よりはずっと人間的にみて安心することができる。
地球には大気があり、風がある。それと同じように、地球には海があり、潮の満ち引きがある。毎日まいにち2回ずつ、満潮と干潮がやってくる。私たちが暮らす大地だって、あまり目立たないけれど、やっぱり毎日2回ずつ、数十センチ、上がったり下がったりを繰り返している。
オーストラリア東海岸に広がる世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフのサンゴは毎年1回、満月の夜に一斉に産卵するという。月の光を感じて発現する体内時計の役割に関係する遺伝子が見つかった、というニュースがしばらく前に流れた。満月の夜は干満の差が激しくなる。その激しい潮の流れに卵をゆだねて、生育範囲をできる限り拡大しようとするサンゴの生き残り戦略が、遺伝子の中に埋め込まれているのだろう。
ウミガメは、満月や新月の満潮時にも波がかからない砂浜の波打ち際に卵を産み落とすという。卵に波がかからないように、そして孵化した赤ちゃんガメが海まで辿り着けるように。地球上の生物にとって、潮の満ち引きは、種の生存と繁栄に欠かすことができない大きな影響を与えている。
この干満の莫大なエネルギーは、月が地球の周りを回って、重力で引きつけあってお互いの角運動量を交換し合っているところからくる。月も地球もその大きさの割にはお互いに近すぎる距離にいるために、お互いの自転を潮汐で縛り合って、その反作用として、月と地球の距離は毎年4センチほど遠ざかっている。月はとうの昔にその自転を地球にロックオンしてしまって、あのおなじみのウサギの模様の面をいつでも地球に向けて地球の周りを回っている。
この、お互いにつかず離れず(離れてるって!)お互いを縛り合って干渉し合う二つの天体がこれだけ近い距離にいるというのは、太陽系の中の他の惑星を見ても異例のことだ。太陽系形成の初期に原始地球に火星ほどの大きさの惑星がぶつかって、地球の周りに破片をまき散らし、その一部が集まってできたのが現在の月、だということらしい。
では、惑星同士がぶつかって月を形成するような現象は、宇宙全体ではどれだけあるのか。NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡を使って調べた結果がプレスリリースで公表された。
NASA/JPL: Astronomers Say Moons Like Ours Are Uncommon
生まれてから3千万年ほど経った恒星を400個ほど調べたところ、惑星衝突の証拠とも言える細かいチリをまとっている恒星は1個しかなかったという。このことから、地球と月のような惑星の衝突によって生まれた「濃密な関係の衛星」を従えている惑星は全体の5パーセントから10パーセント以下しか存在しないだろう、という。
・海の水が蒸発しても水蒸気を宇宙空間に逃がさないほど地球の重力が強く、
・海の水が液体でいられるほど、熱すぎず、寒すぎず、
・海の水に干満を与えるお月様がほどよい近さにいて、
なんというはかりしれない偶然の産物として、地球上の命は生まれたというのだろうか。
高校生の頃、なにかの映画を見に行ったら、「ラストコンサート」という、とてもマイナーな映画が同時上映されていた。失意の中年ピアニストが、病に冒された少女との不思議な交流の中で立ち直っていくという、ストーリー的にはちょっとあれげな映画だったけれど、フランスのノルマンディー南部にある修道院モンサンミシェルの映像がとても美しかった。なぜか忘れられない映画の一つ。「30年前のセカチュー」か。なるほどね。
そのモンサンミシェル、ラッパ状のサン・マロ湾の奥深くに位置するので、干満の差が15メートル以上もある。浅瀬になっているため、引き潮で18kmほどまで遠ざかっていた波打ち際が、満潮になると猛烈なスピードで押し寄せて、島を孤立させてしまう。かつては波に飲まれて命を落とした巡礼者が数多くいたという。
かぐやのハイビジョン映像を見て、改めて思う。
月はその存在によって、この地球に命の恵みを与え続けている。
46億年の歴史に、ありがとう。
地球は美しい星だ。
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