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2006.09.14

宇宙飛行士は早く老ける?

1950年代末から1960年代初頭にかけて。アメリカと旧ソ連が人間を宇宙に送り込むことにしのぎを削っていた頃、フライトサージャンと呼ばれる宇宙航空医師は人類未踏の宇宙空間に人間が進出したときに人間の身体にいったい何が起きるのかについて、頭を悩ませていた。あるものは無重力では物が食べられなくなるといい、あるものは無重力状態に置かれた人間は精神が錯乱状態に陥るのではないかと本気で心配した。

現実にはちゃんとものも食べられるし、宇宙での暮らしを経験した宇宙飛行士の体験談を聞くと無重力状態とはずいぶん楽で楽しいものらしい。数々の困難を乗り越えて人間がその場に行ってみて初めてわかった知見である。

一方で、事前には予測されなかったいろいろな問題も浮かび上がってきた。一つは、無重力状態で長期間生活すると、骨のカルシウムがどんどん血液中に溶け出して、骨粗鬆症のような状態になる。足の筋肉もどんどん退化して、足が細くなる。人間の身体がいかに重力を必要としているか、重力がなくなったとたんに生物の身体は急速に新しい環境に適応して無駄な部分を退化させようとするか、これも人類が宇宙に長期滞在するようになって初めて明らかになった知見である。

仕事を終えて帰宅すると、盟友白崎ドクターから一冊の本が送られてきていた。

宇宙飛行士は早く老ける?—重力と老化の意外な関係
ジョーン ヴァーニカス著
向井 千秋/日本宇宙フォーラム監修
白崎 修一訳
朝日新聞社

本の前書きには向井宇宙飛行士から寄せられた言葉が記されている。

この本にはヴァーニカス博士が長年の研究で得た数多くの情報や、彼女が常日頃考えていることが余すところなく書かれています。キーワードは「重力」です。私たちは地球上で重力に縛られて生きています。このことを私たちは普段あまり意識していませんが。私たちは、自分たちが重力によっていかに影響を受けているか、重力抜きには私たちの生活は何一つ語ることができないことを知るべきなのです。
ジョングレン宇宙飛行士からも言葉が寄せられている。あとがきには白崎医師自身がいかにしてこの本の翻訳を引き受けるかになったのかのいきさつが語られている。そうなのか。去年の7月、フロリダで我々と別行動してたのはこんなことがあったんですか。(笑

著者のヴァーニカス博士自身から「日本の読者向きでない部分があれば割愛してもよい、さらに、日本の読者に必要な情報は加えてもよい」という指示があったとのことで、本の中に出てくる写真や図表のかなりの部分が日本人宇宙飛行士や日本の病院からの資料になっている。このあたりはさすがに白崎医師の面目躍如といったところか。翻訳本というより、独立した日本の本です。さすが。

人間が宇宙へ行ってはじめてわかることがある。その知見によって、地上にいる我々がいかにすれば健康なままで長生きすることができるかがわかるようになる。さすが向井さんと白崎さん。JAXAももうちょっと科学...(ごにょごにょ

白崎さん、本をありがとうございます。この週末、じっくり読んでみます。

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