はやぶさとF1
世界三大スポーツイベントといえば、オリンピック、FIFAワールドカップ、そしてF1レース、といわれるらしい。
管理人自身はF1レースのファンというわけではないのだけれど、自動車レースを文化の域にまで高めてしまう欧米、特にヨーロッパ各国のサポーター達の懐の深さにはなんとなくうらやましいものを感じてしまう。
F1レースは何を目的として開催されているのだろう。F1レースを応援する人々はF1のどんな側面を支持しているのだろう。レーサーの華麗なるドライビングテクニック? ピットクルーの一糸乱れぬチームワーク? メカニックの求道的で職人的なマシンチューニング? ワークスチームが開発する夢のような究極のモンスターマシン? あるいはそれら全ての要素がコース上で絡み合って人間の闘争本能をかき立てるレース展開?
それらの楽しみ方のどれもがきっと正解なのだろう。F1とは奥の深いスポーツであるらしい。
日経新聞の清水正巳編集委員が「研究の失敗に寛容な風土はできるか」と題した、はやぶさの評価に関する論評記事を公開し、いくつかのブログでさまざまな反応が見られた。その中でも松浦晋也氏のブログ記事がISASサポーターの視点を代表するものとしてよくまとまっていると思える。
清水氏はまず
日本の小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワの探査ほど、成功したのか、失敗したのか分からないプロジェクトはない。と記事を切り出す。この文章が記事全体のトーンを決めてしまっているともいえるが、自身の言葉で科学技術を
科学技術の研究開発には新発見やイノベーションにつながる発明、そして一つ一つの技術を組み合わせ、全体システムをつくりあげるような技術開発プロジェクトがある。前者は未知の世界の挑戦という性格があり、失敗なしに成果を挙げるのは至難の技である。一方、後者は着実にシステムをつくることが前提であり、出来上がったシステムが動かなかったり、目標を達成できなかったりすれば失敗であり、無駄な研究開発ということにもなる。と定義し、はやぶさについては
つまり、前者では失敗は許容され、後者では失敗は許されないということになる。はやぶさは後者になるが、と断じている。この認識がそもそも事実誤認だというのが松浦氏の認識であり、管理人も同意する。
それ以外にも両者の主張には根本的な認識のずれが見られる。この議論を見ていて、「F1レースの価値を理解しようとしていない人にF1の何がすごいのかを説明しようとしているサポーター」という図式を思い浮かべてしまった。そもそもF1レースに参戦する価値があるのかないのかという段階で議論がすれ違ってしまっているのではないのか。
JAXAの「今日のはやぶさ」のページにも掲載されている500点満点ミッション達成度自己採点表が、はやぶさミッションの意義を理解しようとしない人に対して誤解のきっかけもしくは批判の手がかりを与えてしまっている、ということに、この表を作った人は気づいているのだろうか? また、はやぶさが工学試験衛星であることが社会の中にどのように受け止められているのかを気づいているのだろうか?
F1にも宇宙開発にも詳しくない管理人が個人的偏見でこのミッション達成度の表をF1レースに勝手に焼き直してみるとこうなる。
新型エンジンでラップタイム記録
50点
新型エンジンで予選通過
100点
ポールポジション獲得
150点
前年チャンピオンをバックストレートで抜く
200点
決勝レースでトップを走る
250点
コースレコード達成
300点
決勝レース優勝
400点
グランプリワールドチャンピオン
500点
あなたならはやぶさチームがどこまで達成したら満足しますか?
ところで、F1レースと宇宙開発には一つ重要な違いがある。F1がワークスやサポーターの民間資本によって運営されているのに対し、宇宙開発は国民の税金によって賄われている。また、宇宙開発の意義にも科学的探究や未知の世界の探検の側面がある一方で気象衛星や地球観測衛星など人間の社会活動を支えるという実用的な側面も求められている。
税金を払っている納税者の一人一人の利害をワークスの株主に例えると分かりやすいかもしれない。ワークスはなぜ巨額の資金を投資してF1レースに参戦し続けるのか。株主はその投資に対してどのような理解を示しているのか。
F1の関係者はF1を愛しているからこそF1に参戦するのだろう。ワークスはF1に参戦することの意義をワークスなりに判断しているのだろう。関係者はレースの結果を見せることでこそ株主にアピールすることが出来るし、ワークスには株主に対する説明責任がある。
日本でF1グランプリが開催される時代が来るなんて、管理人の時代錯誤な感覚からすれば夢のようだ。
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