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2005.07.16

逆取材

「日本のマスコミは日本の宇宙開発に対して冷たい、という意見があるが、どう思うか?」と、メディアの何人かに逆取材してみた。

ある人からは「確かにそういう面はあるかも」と前置きした上で、その理由として、

1) 新聞は読んでもらえる記事しか書かない。ロケットの記事は普通の人に読んでもらえない。打ち上げが失敗した時には世間の注目が集まるので、注目が集まるような記事の書き方になってしまう。

2) 日本の新聞は専門の記者が育たない。ある分野を担当して詳しくなったとしても、3年くらいで別の分野の担当に替わってしまうので、経験や長期的視点が蓄積されない。深く考えずについ目先の話題を追いかけがちになってしまう。

という趣旨の答えが返ってきた。

別の人からは

1) 宇宙開発の意義を自分なりに理解して伝えようとしているつもりだけど、社内的に通らない。使っているお金の大きさに対して社会にどのようなリターンがあるのかをきっちりと説明することが求められる。

2) 宇宙グッズを配ったり、宇宙の音楽を募集したりなどの企画は、必ずしも効果的なお金の使い方だとは思わない。これらの企画はすでに宇宙に関心を持っているマニアックな層の理解を得るには役立つかもしれないが、残りの8割以上の宇宙に関心を持っていない層には届いていない。むしろGPSや気象衛星など、宇宙が暮らしの中でどれだけ重要な役割を果たしているかを残りの8割の人間に分かりやすく説明して理解を得るべきではないのか。

3) 宇宙開発は国家の存続の基盤に関わるものなのに、長期的視点からの戦略や説明がない。狭い縦割りの系列組織の中だけで話が閉じている。例えば太陽発電衛星などはエネルギーの問題であるので、その観点からプロジェクトを推進するべきなのに、現状では「ロケットを何機打上げることができる」という宇宙機関としてのメリットの話が中心になっている。これでは国民の理解は得られない。

4) 科学衛星などは打ち上げの時だけ大きな話題になるが、科学的成果の発表がタイムリーに出てこない。NASAのチャンドラなどでは、成果が出るたびに記事の素材になるようなプレスリリースが次々と出てくる。日本の場合は、ある成果が得られた場合、素材としてではなく「最初から最後までこのような感じの記事にして欲しい」と方向性の定まったリリースを出そうとして、他の国に先を越されそうになったり、記事として扱いづらい情報になる傾向がある。

という話があった。

さらに別の人は、今回のディスカバリー号の窓の保護カバーが脱落して耐熱タイルを傷つけたことに対するNASAの広報スタッフの対応に感心していた。トラブルが発覚して報道陣が駆けつけると、広報スタッフがすでに何人も待ちかまえていて、記者の一人一人に現状がどこまでわかっていて、次に誰がどこでどうするという話を手際よく伝えていたとのこと。広報スタッフの一人一人に与えられている説明可能な権限の範囲がじつに手広く、しかもお互いに横の連携がとれていてよどみがない。直前に打合せをして「何をどこまで話してもよい」という調整をしてあるのだろうけれど、それにしてもすばやい、とのこと。日本だったらこのような場合、「それについては何時何分から説明会を開きますので、それまでお待ちください」という回答しかもらえない、という。

旧ISASと旧NASDAの広報の姿勢の違いについて聞いてみると、旧ISASのほうが取材がしやすかったらしい。旧ISASには専門の広報組織がなかったので、それぞれの先生がたに直接取材することが許されていた。先生がたも質問すれば丁寧に答えてくれた。一方、旧NASDAはすべて広報部門を通して取材する必要があり、それぞれの質問に対していちいち上層部の決裁をクリアする必要があった。午後3時に取材を申し込んでも翌日の朝刊に記事が間に合わない、ということがたびたびあった。旧NASDAの広報は「分かりません」「答えられません」という回答が多かったという。

「火星探査機のぞみの失敗報道についてはどう思うか」と聞いてみると、ある記者は「新聞記者にとっては自分が知らなかったことはニュースなんですよ」と答えた。「制御ができなくて火星軌道投入が難しいことはずいぶん前からわかっていたことじゃないですか」と聞くと、「プロジェクトの先生たちがいいニュースも悪いニュースもそのつどメディアに流してくれていればもっと違っていたでしょうね」という。

ISASが「情報を隠ぺいしているのではないか」という感想は別の記者も抱いたらしい。記事を書く際にその印象は記事になんらかの影響を与えたと思う、とも。金額の話は個人的には書きたくはなかったが、社内で「記事としては不可欠な要素」と指摘されて書いたのだという。

情報を公開する姿勢については、のぞみ以降、改善されたという感想をもっているとのこと。ただ、プロジェクトマネージャーはあまりに忙しくて広報どころではない、というのが現状のようだ。

悪いニュースの発表のタイミングをずるずるとうしろに延ばし続けると、悪気はなくても「隠ぺいだ」と疑われてしまって不利だという。「なにがあっても事実を淡々と伝え続けるのだ」という姿勢がプロジェクトを進める側にはとても大事なのだ、と、この逆取材で感じた。

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Comments

興味深い「逆取材」ですね。
項目2と3は、なるほどと思いましたが、他の項目に関しては、勉強不足、取材不足を取り繕う言い訳も混じっているように思います。JAXAの体制(とくにISAS)をNASAと比べるのは、かわいそうですね。金も時間も人もないなかで、これ以上の対応を要求すれば、本来の仕事がおろそかになるでしょう。

nqさん、どうもです。

記者の勉強不足、取材不足を補うためには、やっぱり専門記者の養成が不可欠ではないかと感じます。現状は一人の記者があまりにもいろいろな分野を担当しすぎているように思います。そして専門記者が育つためには、専門記事がもっと読まれるようにならないと難しいのでしょうね。鶏が先か、卵が先か、難しい問題です。

はじめまして。興味深いエントリーなのでコメントします。マスコミの方の宇宙開発に関する報道には少々閉口する部分もあるのですが、この逆取材での指摘は、まさに「わが意を得たり」という思いです。

体力不足が原因なのかも知れないですが、広報なくては、国民も興味を持たないと思うんですよね。

ただし、
>宇宙開発は国家の存続の基盤に関わるものなのに、
>長期的視点からの戦略や説明がない。狭い縦割りの
>系列組織の中だけで話が閉じている。

この部分は政治の分野の問題ですから、JAXAや旧NASDA、旧ISASを責めるのはお門違いだとも思います。もしその部分に疑問を持ったのであれば、マスコミは取材して、社会に問えると思います。この意味で、マスコミも責任を果たしていないとも思いますね。

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