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2005.07.18

液体燃料タンクセンサー

液体水素燃料タンクの残量を見るセンサーの不調で打ち上げが延期になったディスカバリー号。船長のアイリーン・コリンズが声明を出した。

NASA: Statement From Space Shuttle Commander

"My crew will remain in quarantine for the near future, maintaining our proficiency for this mission. We are keeping in close touch with the troubleshooting plan; we have confidence that the best people are working it. In fact, the plan our engineers have put together is impressive, and we are very proud of the work they are doing!

"While the launch delay is disappointing, we have strong confidence that the mission will launch safely and successfully, and we fully support our NASA leadership for taking the time required to understand the problem. We thank all of you for hanging with us!"

宇宙飛行士というのはトラブルがあっても同僚を責めたりはしない。どんな状況でも与えられた任務を着実にこなす、優等生のような性格の持ち主でなければならない。コリンズ船長のこの声明も、優等生を絵に描いたような見事な模範的回答だ。

ただ、よく見ると、この言葉の選び方に、彼らの置かれた立場からのじつに微妙な主張を読み取ることができるような気がする。

ポイントは「we fully support our NASA leadership for taking the time required to understand the problem」という一文だ。管理人の見るところ、この下線部にコリンズ船長はNASA上層部へのメッセージを込めたと思える。つまり「しっかり時間をかけて調査しろよ(中途半端な状態で打ち上げるなよ)」と。いつ打ち上げられてもいいと思っているのなら、もっと別の言葉を選ぶはずだ。あくまで邪推だけれど。

今回、打ち上げが見られなかったのは個人的にはとても残念だけど、NASAのシャトルプログラムがトラブルに遭遇した際の危機管理の一端をNASA TVなどでリアルタイムに垣間見たのは収穫だった。というか、ちょっとした懸念のような感情を抱いた。

まずは打ち上げ延期後の最初の記者会見でシャトルプログラム副マネージャーのWayne Hale氏が語った“All I can say is, shucks,”という言葉。「ちぇっとしか言えない」なんて、最初に聞いた時は「自分の感情を素直に表に出す人だな」と思ったけれど、その後の数日の会見でHale氏の記者とのやりとりを聞いていて、「この人は果たして部下から信頼されているのか」と思ってしまった。

国際宇宙ステーションとのドッキングと、打ち上げ時にシャトルや外部燃料タンクの様子を撮影するための日照条件から、打ち上げ可能日時が強く制限されていて、NASAが極めて強いスケジュールのプレッシャーにさらされていることはよくわかる。しかし管理人の目にはNASA上層部、とくにHale氏がそのプレッシャーに負けてしまって、判断能力をやや失っているのではないかと映る。

今回、トラブルを起こしている液体水素燃料タンクの残量センサーの履歴がこの記事によくまとめられている。

Spaceflight Now: Engine Cut-Off Sensor Background

4月の一回目の燃料注入試験で、4つあるセンサーの3番目と4番目のセンサーが動いたり動かなかったりするというトラブルがあった。そこでオービターに搭載されているセンサー制御ボックスをアトランティス号のものと交換し、下ろした制御ボックスを分解して動作確認したが、不調は見いだせなかった。3番目と4番目のセンサーの信号ケーブルもこの時、張り直した。

この注入試験では、燃料パイプへの着氷の問題がクローズアップされ、外部燃料タンクと固体燃料ロケットブースターをアトランティス号のものと交換することが決まった。

5月に2回目の注入試験を行った時、センサーは正常に作動した。しかしその後に行った追試験で制御ボックスが不調になり、エンデバー号のものと交換された。

6月、外部燃料タンクと固体燃料ロケットブースターをアトランティス号のものと交換したディスカバリー号が再び発射台にその雄姿を現わした。管理人はこの時、NASAは当然、3回目の燃料注入試験をするものと思っていた。が、3回目の注入試験は行わないことが決定、「NASAはどうしても7月に打ち上げるつもりだな」と、解釈した。

で、7月13日、打ち上げ当日。燃料タンクに燃料が注入され、センサーは「wet」の信号を出した。ここでシステムの検査のため、センサーが「dry」になるような信号を送ったところ、3つのセンサーは期待通り「dry」の応答を返したが、2番目のセンサーだけが「wet」の信号を送り続けた。

打ち上げが中止になって、燃料が抜かれた時、他の3つのセンサーは正確に「dry」の信号を送ってきたが、2番目のセンサーはやはり「wet」の信号を送ってきた。このセンサーからの信号が「dry」になったのは、燃料を抜いてから3時間後。

このように、起きたり起きなかったりするトラブルの原因を突き止めるのはとても大変なことだ。こんな時のトラブルシューティングの鉄則は、「再発の条件があきらかになるまでシステムにはさわらない」ことだと管理人は思うのだけれど、その後のNASAの対応はいささか我が目を疑いたくなる。「これがNASAのやることか?」と。

外部燃料タンク内に設置されたセンサー本体と、その周辺の信号ケーブルの取り回しをチェックするのは発射台ではとても困難なことだ。そこで、NASAは作業員がアクセスのしやすい制御ボックスと、オービターから燃料タンクまでの信号ケーブル周辺をまず確認する、という方針に出た。

管理人としては13日のセンサーの挙動から考えると、極低温の液体水素注入に伴う熱収縮がまず疑われる。巨大な燃料タンクに液体水素を注入すると、タンク全体が数センチは収縮するはずだ。その際、センサーからの信号を運ぶケーブルはどのような取り回しになっているのだろう? 設計変更はなかったのか?

NASAにとって緊急の課題は「同じトラブルを再発させ、その条件を特定すること」のはずだ。そのためには、再度の燃料注入試験を行うことが必須だと管理人は考える。ところが、NASAはトラブルを再発させる前にシステムのケーブル接触を確認したりして、再発条件を確認しないままに部品交換などの着手しやすい手段でトラブルを回避しようとしているように見える。

燃料注入試験は発射台でしかできない。再発試験のタイミングは今をおいてありえないのに...

そういう目であらためて4月と5月の燃料タンク注入試験とその後のセンサーの「修理」の履歴、さらに6月に3回目の注入試験を行わないことをNASAが決めたことを振り返ると、「これがほんとにNASAのやることか?」と思えてくる。

打ち上げ延期決定後のNASAの声明はじつに見苦しい。7月中の打ち上げにこだわるあまり、システムのトラブルシューティングをどのような手順で進めるかの見通しが声明の中に明らかにされていない。限られた日数の中でアポロ13号のクルーを無事に地球に帰還させた「NASAのすばらしい危機管理」とは対極に位置するなにかを感じる。

そしてその「なにか」は、チャレンジャーとコロンビアの事故直前の「なにか」とだぶって見えてしまう。

コロンビア号事故調査委員会の「NASAのスケジュール優先、安全軽視の文化を改めよ」という勧告が、今ほど重みを持って感じられる時はない。

金曜日の記者会見で「宇宙飛行士達はいったん、ヒューストンに戻る」と発表されたという。ところが、その後、ある記者から聞いた情報では、そのわずか数十分後に、NASAはその発表を覆し、宇宙飛行士をフロリダにとどめておく決定を下したそうだ。NASAの内部でも混乱して意見が対立している様子がうかがえるような気がするのは管理人だけだろうか。

その決定を下したのはいったい誰だ? なんのために?

ディスカバリー号をチャレンジャーやコロンビアの二の舞いにして欲しくない。

宇宙飛行士達はセンサーのトラブルシューティングにまつわる状況を逐次、伝えられている。そう思って、もう一度、冒頭のコリンズ船長の声明を読み直してみると、彼らの気持ちが伝わってくる気がする。

シャトル打ち上げのスケジュールと、国際宇宙ステーションに与える影響の話がHoustonChronicleにまとめられている。

HoustonChronicle: Space station needs boost from shuttle

NASAも苦しいというのはよくわかる。しかしここは、全体のチームワークをもう一度建て直すべき時だ。調査のやりやすい場所から少しずつシステムに手を出していくと、なにがなんだかわからなくなって、最後は自分で自分の首を絞めることになる。

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Comments

 ご無沙汰しております。来ておられたのですか!
 当方まだ米国にて待機しております。

 NASAへの懸念、私も感じています。5thstar管理人さんは、記者会見におけるグリフィン長官の態度をどう感じましたか。どうも私は…

松浦さん、ご苦労様です。ホテルのロビーでよく似た方をお見かけしたと思ったら、やっぱりご本人でしたか。ご挨拶もせず、失礼しました。

NASAの文化は変わっていないと思いましたね。グリフィン長官の挙動は詳しくウォッチしてなかったのであまり印象に残っていないですが、記者会見の場に居合わせた方の話によると、上院議員、下院議員などが同席した記者会見と、その後の記者会見では、長官がしゃべる雰囲気がかなり変わっていたそうですね。

NASAが置かれている立場が苦しいというのはよくわかるのですが、宇宙飛行士の命を粗末に扱って欲しくないです。

NASA上層部はとうとう、フライトルールを変更してまでも、ディスカバリー号を7月中に打ち上げそうな気配を見せ始めました。

http://cbsnews.cbs.com/network/news/space/current.html#CBS%20NEWS%20STATUS%20REPORT

10:00 p.m., 07/17/05, Update: NASA still baffled by sensor problem; engineers discuss possibility of tanking test

While engineers are leaving no stone unturned trying to isolate the problem and fix it, NASA managers have directed one of the troubleshooting teams to study the rationale for amending the launch rules to permit a takeoff with just three of four operational ECO sensors. That's assuming, of course, engineers can successfully demonstrate that whatever prevented ECO sensor No. 2 from operating properly during Discovery's countdown won't affect other sensors after launch.

http://www.floridatoday.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20050718/NEWS02/507180330/1007/news02

Deputy Shuttle Program Manager Wayne Hale said last week he would prefer to identify the cause of the problem and fix it before flying.

He would not rule out the possibility that NASA could analyze the situation and fly with the knowledge that one of the sensors might be problematic.

燃料タンク注入試験を実施するとなにかまずい事態が上層部にはあるのでしょうかね? 関連会社の株を持っているのではないかとか、なにかの不祥事が発覚するのではないかとか、妙な想像が膨らんでしまいます。このまま打ち上げて証拠をインド洋上空に葬り去りたいのかなぁ... 映画の見過ぎ?

スケジュール厳守へのプレッシャーと予算削減に向けた流れのなかで、一層注入試験を行う余裕などどこにも無い、ということなのでしょうか。NASA内部は相当揉めていそうですね。

アポロ13号では結果的にうまくいきましたが、失敗も紙一重のはずでした。今回もうまく行けばすぐに修理を終えて打ち上げを行い、やはりNASAの底力は凄いとなるはずが、悪い方に結果が出たようです。つまり、思っていたようには原因が判明せず、こんな事なら早めに打ち上げを先延ばしにして、時間はかかるが確実な方法で原因の絞り込みをしたほうが良かったかも知れません。
NASAは原因究明と今後の対処のために、12チームを組織して、休みも返上して24時間体制で作業を続けています(KSCではもう半年以上こんな状況です)。昔、この辺の機器を設計したエンジニアも多数集り、毎日作成される資料も膨大なもので、圧倒されますが、結果がまだ出ません。
食事も抜きで6時間以上も複数の会議を延々と続けたり、付き合うこちらの体力が尽きそうです^^。もう少し気長な目で見てあげて下さい。
エンジニア1人1人が気になる問題点があれば率直に発言する機会も与えられており、会議の最後には、意見がないか必ず確認する機会が与えられています。この辺はコロンビア号事故前とは大きく違います。
ちなみに、spaceflightnow/CBS Newsの記事はどこからネタを得ているのか不明ですが、公開していないはずの会議内容まで把握しており、驚くほど早くて正確で、我々も参考にしています(耳で聞くより、文字の方が楽ですから)。
さて、いつになったら帰国できるのやら。。。。というか、いつまで連続勤務が続くのやら先も見えないところが。。。

現地滞在、ごくろうさまです。

CBS NewsのWilliam Harwoodさんのことですね。私も彼のwebの情報には今回非常に助けられました。打ち上げ当日もi-modeで彼のサイトをチェックしたりして。

日本の報道陣も「なんなんだあの人は」と驚いてましたね。CBSの人は「うちの局にはシャトル・アナリストがいるから」と自慢していたようです。

NASA TVを見て、CBS NewsとFlorida Todayをチェックすれば、NASAの動向はだいたい掴めてしまいますね。しっかりとした情報源を掴んでいるのでしょう。

率直に発言する機会が与えられているのであれば、以下の提案をお願いできますか?

I fully support NASA to go through the tanking test. Please consider measuring the following data:

1) Measure the starting time of LH2 and LOX flow.
2) Measure the timing of ECO No.2 goes "wet".
3) Keep sending the simulated dry signal every 10 seconds or so, and measure the timing of ECO No.2 returns faulty "wet".

4) Drain LH2 * and record the time.
5) If ECO No.2 reads "dry", record the time.
6) If ECO No.2 keeps reading "wet" for 5 hours, drain LOX.
7) If ECO No.2 reads "dry", record the time.

*) Drain LOX first then LH2 if safety regulations enforced.

If the ECO No.2 problem reproduces itself in the above test, the timing of the faulty response will give an additional crue for locating the source of the problem.

If the timing is short, the sensor itself is the likely cause. If the timing is long, it is likely that the mechanical stress due to the thermal contraction of the fuel tank by LH2 or LOX low temperature is the likely cause.

私が口を出さなくてもわかっているエンジニアがいると信じたいですが、tanking testの決定に1週間も失うなんて...

仮に問題が再発しなければ、あるいは再発してもECO No.2だけの問題であると特定できれば、NASAは26日に打ち上げるつもりですね。

ご苦労様でした。私はJAXAの打上がらみだと当事者の人達がどー考えたんだろうなぁというのはまだ何となく想像がつくんですが、NASAのやり方は全然把握できていないので、皆様の書き込みを見てへぇ、と感心することしきり、です。そのうちもっと勉強せねば。。。

しかし前回の事故の後ですから、さすがに事故だけは起こさないようにすると思うんですけどね。過剰な試験をするぐらいにならないんでしょうかね、アメリカの官僚機構だと。

ところでシャトルの打上の代わりにはならないかも知れませんが、是非是非能代宇宙イベントでハイブリットロケットの打上やComeBackコンペなど御覧になりに来てください。と、最後は宣伝でしめてみたり;

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