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2004.12.12

書評「科学技術はなぜ失敗するのか」

Do you think for the future?の記事を読んでから気になって、amazon.co.jpのショッピングカートに「科学技術はなぜ失敗するのか」を乗っけておいた。著者の中野不二男氏は元NASDAでH-IIロケットを担当した五代富文氏と共に「日中宇宙戦争」を執筆した人でもある。

安野光雅氏の「石頭コンピューター」の31年ぶりの改訂版が出版されたのを記念に、「科学技術はなぜ失敗するのか」も一緒に買い求めた。つーか、amazonの送料を節約したかった、ともいう。

「科学技術はなぜ失敗するのか」は2002年1月から2004年11月まで中央公論に「ニュースの方程式」として連載されたコラムを新書判として纏め直したもの。「まえがき」にはこんな言葉がある。

 だが、そうした成果が一般の人々にまで届くことは、ほとんどない。毎年10月中旬に行われるノーベル賞選考委員会の結果も、日本人が受賞しなければ、驚くほど小さなニュースにしかならないのが現実である。
 それどころか、社会における日々の出来事においても、およそ科学・技術に関連するものは、メディアはほとんど伝えない。伝えないばかりか、失敗や事故といった“負”の側面だけに集中している。しかもその“負”の内側に潜む問題にまでは、手を伸ばそうとはしていない。少なくとも私にはそう思えてならないのである。
 ......略......
 気象衛星だけではない。通信衛星であれなんであれ、国民生活に直接関わるような衛星は、予備機を用意しなければならないのである。しかしそうした根本の問題については、メディアはほとんど触れようとしない。報じるのは、失敗という目の前の結果だけである。日々起きている事件や事故には、かならず一歩踏み込んだ背景があると私は思う。科学・技術がからんでいる場合には、そこにこそ本質があるといってもよい。
前著の「日中宇宙戦争」が少しぼやけた出来栄えだったので、あまり期待していなかったのだけど、いい意味で裏切られた。読み始めてから数時間で、一気に読み終えてしまった。近年にない、なかなか爽やかな読後感。ノンフィクションとは、こうでなくっちゃ。各新聞社の科学部記者にこそ読んでもらいたい本だと思う。

連載コラムを本にした、というわりには、掲載の順番が元の記事の時系列とは無関係に纏め直されている。どちらかというと、前半の記事が面白くて、後半にいくに従って、テーマの掘り下げに若干の物足りなさを感じたり、取材不足を感じることもある。宇宙関連や原子力、燃料電池、ロボットなどのテーマが著者の得意分野なのか、いい切れ味を見せているのに対し、SARSやアメリカ軍「誤爆」、零戦のテーマは正直、食い足りない。しかしこういうすぐれた著者を一本釣りする編集者がいるとは。中央公論も読んでおいたほうがいいのかな...

ひとつ難点を挙げるとすれば、この本のタイトルはえらくミスリーディングだ。おそらく本のタイトルを決めたのは売れ行きを気にする出版社の側であって、著者には責はないのかもしれない。著者自身はまえがきなどでも「科学・技術」と二つの言葉の間に「・」を加えて、両者をきちんと区別している。英語なら「Science "&" Technology」だ。

「失敗」のリスクを織り込まなければならないのは個別の「科学プロジェクト」や「技術」であって、「科学」そのものではない。いや、科学はむしろ人間の誤謬と無知を前提として織り込んであって、いかにしてそれらを乗り越えていくのか、が、進歩のためのパラダイムであるとも言えるだろう。このタイトルは語弊が多い。

宇宙開発委員会と総合科学技術会議などの関係も詳細に書かれていて、日本の宇宙開発の今後を占う上でも必読の一冊、と言える。

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