« JAXAコラム | Main | 若い世代にとっての天文学 »

2004.12.29

書評「A LAND IN MOTION」

サンフランシスコの対岸に位置するバークレイは学生の街だ。ここを訪れるたびにアメリカの中の自由の息吹と学生の若々しさを感じてなんだか気分が浮き浮きとしてくる。天文学者クリフォード・ストールが西ドイツ(当時)のハッカーを追跡した経験を描いた本「THE CUCKOO'S EGG」の舞台もバークレイだ。坂道を登っていると、クリフォードが汚らしいスニーカーを履いて自転車で坂の上からさっそうと駆け降りてくる姿が目に浮かぶような気がする。

それなりの年配の人であれば、バークレイと言えば映画「いちご白書」の舞台として記憶にとどめておられる方もいるのだろう。1960年代、学生運動華やかなりし頃は、この地が反戦運動の拠点だった。

そんな反戦運動の闘士達が当時、根城にしていた書店がサンフランシスコのダウンタウン、チャイナタウンやイタリア人街からさほど遠くないところにある、というので、知人につれて行ってもらった。その書店とは「CITY LIGHTS BOOKS」。通りを一本隔てると、日本人が迷いこむとあまりよろしくない地域、らしい。

CITY LIGHTS BOOKS
261 Columbus Ave.
San Francisco
www.citylights.com

チェ・ゲバラの著書なんかが平積みにされていたりして、なるほど、なかなかとんがった感覚の持ち主が店主を勤めているのだな、と、みょうに感心する。Amazon全盛のご時世、先鋭的な品ぞろえの書店なのに経営が成り立つ、というのは、サンフランシスコの住人がそれだけ先鋭的だ、ということなのだろう。

この書店を訪れたのは米軍のイラク侵攻が始まるか始まらないかという時期だったけれど、「ADDICTED TO WAR」という、アメリカの軍事政権を痛烈に風刺した漫画教育本が目に留まったので、買ってみた。同じ時に買ったのが「A LAND IN MOTION 〜California's San Andreas Fault〜」という本だ。

サンフランシスコといえば、1989年の大地震を思い出すまでもなく、日本と同じ地震の街でもある。実際、カリフォルニアは日本の4つの島とほぼ同じ規模だけれども、その大半を活断層地帯が貫いている。そのなかでもまさに親玉中の親玉というべき存在がサン・アンドレアス断層だ。

「A LAND IN MOTION」は、1000km近いこの断層のいろいろな場所での風景を綺麗に切り取った写真集のような趣きと、最新の地球科学のわかりやすい解説書の側面を合わせ持つ。英語が読めない人でも、この本に掲載された豊富な写真と図解を眺めるだけでも、地球の息吹の側面を視覚的に十分体感できるだろう。地球は生きた星だ。

日本は地震の国なのに、このように芸術的にもすぐれた地球科学の啓蒙本になかなかお目にかかれないのは残念な気がする。たとえ出版しても、あまり売れないのだろうか。

この本の冒頭に、Don Charlesという人の詩が引用されている。

If I could move real slow
I could hear the rocks talkin'
If I could move real slow
I could see the trees walkin'
.....

スマトラ島沖地震の津波災害で亡くなられた人々のご冥福をお祈りします。

« JAXAコラム | Main | 若い世代にとっての天文学 »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 書評「A LAND IN MOTION」:

« JAXAコラム | Main | 若い世代にとっての天文学 »

zeitgeist

MyBlogList

無料ブログはココログ