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2004.09.07

書評「生命の星・エウロパ」

エウロパとは木星の衛星の一つ。17世紀初め、かのガリレオ・ガリレイが手製の天体望遠鏡を向けて、木星の周りを回っている4つの天体を発見した。このことから、木星のこれらの4大衛星は「ガリレオ衛星」とも呼ばれる。エウロパはガリレオ衛星の中では最も小さく、その表面は氷で覆われている。が、厚さ数キロとも言われる氷の層の下には、深さ数百キロに及ぶ海が広がっているらしいことが、NASAの探査機パイオニアやボイジャーの観測でわかってきた。

この本の著者、長沼毅氏は、このエウロパの海に、人類がまだ見たこともない地球外生命体が泳ぎ回っているかもしれない、という夢を見る。

長沼毅 著「生命の星・エウロパ
NHKブックス  ISBN4-14-001992-1

ただの夢ではない。深海生物学の専門家として、大西洋中央海嶺や南極、岐阜県の東濃鉱山の地下深く、など、地球の辺境という辺境を、自ら深海潜水艇に乗りこんだり、自分の足で歩き回る。極限の状況で生き続ける生命の姿に迫る。人類の想像を絶するような過酷な環境下で数十億年にわたって生き続けてきた、とてつもない生命力を持つ生物、そんな生物の生きるメカニズムに迫るうちに、著者はいつしか「生命の存在」が宇宙に普遍の方程式ででもあるかのように、地球の生命の進化の謎解きをしてみせる。その痛快なる知識量と筆さばきは、下手なハードコアSF小説を読むよりもはるかに面白い。

しかしこの本はまた、読者に「常識」の概念の再定義を迫ろうとするチャレンジングな本でもある。特に第1章では、あまりにも豊富な話題が背景知識の説明もなしに飛び交うため、読んでいるとまるで17世紀から20世紀までの科学の進展の歴史を3分間で語り尽くそうとするジェットコースターに乗せられたような気分になる。一歩間違えたら「トンでも本」の仲間入りになりかねない、という、ちょっとしたハラハラドキドキ感まで味わえる。

この本は、同じ著者の前著、

長沼毅 著「深海生物学への招待
NHKブックス  ISBN4-14-001775-9

の続編でもある。しかし深海の生物圏にテーマを絞ってこつこつと名探偵のような筆致を静かに進めた前著とくらべると、「生命の星・エウロパ」は趣が異なる。

秋の夜長、宇宙に普遍的に存在する(はず)かもしれない、まだ見ぬ地球外生命体の生態に思いを馳せるには、絶好の一冊といえるだろう。

ところで長沼毅氏は、この本の80ページでみずからカミングアウトしているように、野口宇宙飛行士と同じ時に宇宙飛行士選抜を受験した、つまり、5thstarのメンバーでもある。医学検査も野口宇宙飛行士と同じ班だったので、彼とも親友だ。この本のあとがきにはこうある。

わたしは生まれついての宇宙っ子です。わたしが生まれたのは一九六一年四月一二日、人類が初めて宇宙に飛び出した、まさにその日でした。誕生日ばかりは自助努力のしようがないので、親に感謝しなくてはなりません。このおかげで、わたしは物心ついてから今日にいたるまで、ずっと宇宙のことを考え続けることができました。飽きっぽい性格にもかかわらず、わたしが宇宙にだけはこだわってこられたのも、わたしを生み育んでくれた両親のおかげです。
生物学と宇宙となんの関係があるかって? その謎を解くにはまず、この本を読んでみてください。

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