NASAの火星探査機と米国のスパイ機関
今月から来月にかけて、日本、欧州、アメリカの4機の火星探査機が相次いで火星に到着する。日本のJAXA/ISASの火星探査機「のぞみ」は 1998年7月の打上げの後、紆余曲折を経て今月14日に火星に最接近の後、太陽を周回する人工惑星となった。
欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機ビーグル2号も25日に火星に着陸したと思われるが、信号を傍受することができず消息を絶ったままとなっている。ビーグル2号のチームは現在、火星軌道周回中の母船であるマーズエクスプレスが軌道を修正して、1月4日に更新可能な距離にまで降りてきた時に交信が出来ることに期待をつないでいる。[
時事通信, AP(SPACE.com)]
日本と欧州は今回が初めての火星探査の試みになる。アメリカとロシアは1960年代からそれぞれ火星探査機を送り込んでいるが、それぞれに失敗を積み重ねてきた歴史を持っている。
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4年前の1999年、NASAが火星の南極への着陸を試みて消息を絶ったマーズポーラーランダーという探査機について、一週間ほど前のSPACE.comに興味深い記事が載っていた。
1999年12月3日、火星の南極への軟着陸のために降下したマーズポーラーランダーが消息を絶った。1ヶ月後、NASAはミッションの失敗を宣言。その2年前から火星軌道を周回していた別の探査機、マーズグローバルサーベイヤーに搭載されたカメラを使って捜索を始める。捜索、といっても、カメラの解像度はポーラーランダーの大きさ(2m)ぎりぎり。NASAはNational Imagery and Mapping Agency (NIMA)に画像分析とポーラーランダーの捜索を依頼した。NIMAとはアメリカの国家保安のために地球表面の画像情報の解析を行う機関。つまりスパイ衛星の画像分析を扱うところ。
2001年3月にNASAとNIMAの共同報告書がまとまった時、NASAとNIMAの見解は大きく分かれる。NIMAはマーズポーラーランダーの着陸機本体とカバー、耐熱版、とおぼわしき3地点のピクセルを見つけた、と主張、NASAはNIMAの「発見」は、カメラのピクセルのノイズではないか、と判断。
決着は2005年に打ち上げ予定のマーズルコネサンスオービターに搭載された高解像度カメラHiRISEの映像が得られるまで持ち越し。HiRISEでは直径1mの物体まで見分けられるという。ただしHiRISEがポーラーランダーの捜索に使われるかどうかは他の科学的観測のための時間との兼ね合いとのこと。
NASAとスパイ機関との関係も面白いが、「1ピクセル分の画像データから情報をどこまで絞り出せるか」というのは興味深い問題。同じ地点を数枚、違う光線の状態で撮影できれば、火星表面のアルベド(反射率)の違いから、それぞれのピクセルが隣とどのように異なる振る舞いをするかがわかる。NIMAには岩石と人工物のアルベドの違いを解析するデータベースでもあるのだろうか。んでもって、そういうデータベースを使って地球上の全ての地点を日夜解析しているのだろうか。
なんの根拠も無いけれど、NIMAが提示したポーラーランダーの運命、つまり、探査機はどうにか軟着陸に成功して、その後、何らかの理由で通信が確立できなかった、は、案外正しいのではないか、という気がなんとなくする。
記事の最後にポーラーランダーを製作したロッキードマーチン社のSteven Jollyのコメントが載っている。「もしそうだとしたら、一体全体なんであいつは動作しなかったんだ?」
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[04/1/10 追記]
火星表面のどこに探査機がいるか分かっている場合、軌道を周回するマーズグローバルサーベイヤーが姿勢をその地点にあわせて修正することにより、50cm程度の大きさのものまで識別できる手法を開発したという。
SPACE.com: Orbiter Photographs Viking 1 and Pathfinder Landers on Mars' Surface
残念ながらビーグル2号やマーズポーラーランダーはこの手法では探せないとのこと。
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